記事の目的ー伝統工芸品の酒器を愉しみたい方へのご紹介
家づくりブログを運営している、我が家のテーマは、建築家の堀部安嗣さんが提唱している「懐かしい未来」を体感できること、になっています。
その為の工夫として、最近は週末の晩餐を彩る酒器も一つの力になるのでは?と思うようになりました。
「懐かしさを感じ取れるように」伝統工芸品の文化的背景を
「未来に向かっていけるように」伝統工芸品の技術発展の歴史を
勉強し、まとめていきたいと思っています。
それにより、本記事で私と同じように、切子を知らなかった方々へ、切子らしい切子をご紹介していくことを目的としています。
まだまだ勉強不足で、今後の加筆が必要な記事ですが、ご一読頂けたらと思います。
切子とは?素材-文様加工-輝きは何処から生まれた?
今日よく知られている切子とは、下記3要素から成り立っているかと思います。
素材:外側に色付きガラス、内側に透明なガラスの二重構造になっている 文様:色付きガラスにカットを施し、日本文化を反映した伝統文様を描いている 輝き:磨きにより、高い透明度と輝きをもった仕上げになっている
16世紀に西洋から伝わったガラス容器の文化に影響を受け、「素材」「文様」「磨き」を長年発展させ、ついには洞爺湖サミットにて世界の首脳への贈答品として、日本が誇る伝統工芸にまでになっています。
どのような歴史的経緯を受けて
・「技術」を発展させてきたのか?
・「紋様」や「輝き」を誕生させてきたのか?
これらを調査して、切子が持つ「日本伝統文化の懐かしさ」と「新しい価値」を堪能できるようにしていけたらと思います。
切子の歴史
切子と言えば出てくる言葉は「江戸切子」や「薩摩切子」との通り、江戸時代がキーになってくるとは思いますが、もう少し幅広く歴史を振り返ってみました。
簡単な年表形式でまとめてみましたのでご紹介していきます。
縄文~江戸時代:ガラスの誕生から切子に至るまで
1.縄文時代、メソポタミア文明にて発明されたガラスは、シルクロードを通って中国経由で日本に伝わったようです。
文化的には、ガラスは埋葬用としての小玉が使われ始めています。
技術的には、「ガラスの素材を製造する技術」は伝わっていません。
しかし、ガラス炉は存在していたようで、成型・加工技術は国産化されていたようです。
2.飛鳥時代になるとガラス原料の製造技術も中国から伝わって来たようです。
文化的には、ガラスは 祭祀用として、勾玉が使用され始めました。
技術的には、ソーダ石灰ガラス(ソーダガラス)ではなく、鉛ガラス(クリスタルガラス)の国産化が開始されました。
ガラスの融点を低くして加工し易くする為に鉛を添加していたのか、ガラスの屈折率を高めて輝きを増すために鉛を添加していたのかは、勉強不足の為分かりません。
勉強次第追記したいと思います。
3.平安時代~室町時代になると、水差し等のガラス製品は輸入されていたようですが、国産品は歴史から消えてしまったようです。
4.16世紀宣教師が来日を始めると、再び国産ガラスの灯が生まれてきます。
文化的には、眼鏡や器、フラスコなどの西洋のガラス文化が大名を皮切りに普及を始めます。
江戸のガラス問屋では、引札というカタログが発行され、医療器具、食器、照明器具等豊富なラインナップを展開しています。
技術的には、長崎にガラス工場が建築され、江戸や大阪など全国に西洋と中国の製造技術が広がっていきました。
この江戸時代に国産の鉛ガラス製品(和ガラス)のことを「びーどろ」、ガラスにダイヤモンドでカットを施したがガラス製品を「ぎやまん」と呼ぶようになっています。
更に江戸時代中期になって、加賀屋久兵衛がダイヤモンドの砂によって、初めてガラスに彫刻を施し、江戸切子が誕生しました。
江戸後期~大正時代:伝統的ガラス工芸技法の確立まで
5.江戸後期、島津藩の藩主の島津斉彬は、銅粉をガラスに添加し、暗赤色のガラスに成功させました。
これにより、無色の「江戸切子」に対し、色付きの「薩摩切子」が誕生します。
更に「薩摩切子」の特徴となる分厚い色付きガラスに切子を施すことで生じる色のグラデーション、「ぼかし」の技術も生まれました。
しかし、斉彬が早世したことで、僅か20年間で「薩摩切子」は断絶してしまいます。
この断絶によって、薩摩の職人達が江戸に移ったことで、現代につながる「色被せ江戸切子」が誕生します。
6.明治時代に入ると、イギリス人の切子技師であるエマヌエル・ホープトマンが来日し、円状盤の研磨機を回転させ、文様を削り出す「グラヴィール技法」が輸入されます。
これにより、現代に続く「切子の伝統的ガラス工芸技法」が誕生しました。
7.明治時代中期に入ると、西洋から「ガラスくず」の輸入が始まります。
これにより、現代の切子の素材を二分する、「ソーダガラス」の国産化が始まります。
8.大正時代になると、現代まで続くガラス工房の創業が始まります。
「ガラス素材」と「クリスタルガラスの研磨」の研究が進み、ここに伝統的ガラス工芸技法が確立されます。
昭和~現代:伝統工芸品の指定
9.平成になり、江戸切子が国の伝統工芸品に指定されます。
10.昭和後期薩摩切子を復興させる為に薩摩ガラス工芸が発足し、「薩摩切子」が鹿児島の伝統工芸品に認定されます。
切子の技術・文化基盤
上記の切子の歴史より、技術と文化の基盤をざっくりとまとまてみます。
素材:クリスタルガラス 西暦700年から続く鉛ガラスの製造法、大正時代の研磨技術を基盤とする ソーダガラス 明治中期に輸入された西洋のガラスくずに始まり、大正時代の素材研究を基盤とする 文様:幾何学模様自体はヨーロッパからの輸入だが、江戸の文化を基盤とする 輝き:大正時代の研磨技術を基盤とする
どうやらまだ現状の勉強では、世界のカットガラスと異なる、日本の切子の独自性とか、味は、文様にしか見いだせない状況です。
そんなことは無い気もするので、また勉強が進み次第、追記していきたいと思います。
切子の文様について
カットガラスにおける切子の独自性について、現状は一番分かり易いのが文様という理解になっています。代表的なのは江戸時代の文化に由来する10数種類だそうです。
江戸切子協同組合さんのリーフレットより紹介します。
矢来文
町屋の竹の防護作のイメージ。魔除け、厄除けの意味が込められる。
カット数が少ない為、安価。
色のグラデーションがつけ易い。
魚子文
魚の卵が並んでいるイメージ。子孫繁栄の願いが込められている。
昔は「魚」を「な」と呼んでいたので、「魚子(ななこ)」と読む。
麻の葉文
成長の早い麻をイメージ。子供の健康の願いが込められている。
鎌倉時代頃から、仏像や曼荼羅、家紋などに麻の文様が見られる。
七宝文
円を無限に重ねるイメージ。人の縁が続く願いが込められている。
七宝は仏教に語源を持ち、人の縁は7つの宝(金・銀・水晶・瑠璃・めのう・珊瑚・しゃこ)と同等の価値があると考えられている。
六角籠目文
竹籠の編み方で六角に編んだものをイメージ。
悪いものを追い払う縁起の良い意味が込められている。
歴史的にこの編み目は「六芒星」を表現し、陰陽師が魔除けの印としていた。
カットの難易度は高く、六角籠目の文様はあまり見られない。
八角籠目文
六角籠目同様に、籠の編み目で悪い物を取り除く、魔除けや厄除けの意味が込められた文様。
昔の日本では八は幸運を表し、幸運が全方位に広がっていく八角形を縁起が良いとしてきた。
八角籠目を用いたデザインは安定した美しさを持ち、多用されている。
菊繋ぎ文
菊の形や太陽もイメージされ、高貴、高潔、高尚、品格を表す。
長寿、健康、無病息災、邪気払いの意味が込められている。
江戸時代に、天皇だけが使用できる文様から、庶民も使用できる文様になった。
カットの難易度は高いが、江戸切子では最もメジャーな文様。
菊籠目文
菊繋ぎと同様に菊の形をイメージ。意味や願いも菊繋ぎと同じ。
菊繋ぎより更にカットの難易度は高い。
菊花文
菊の花びらをイメージ。菊は「喜久」と当てて、“喜びを久しく繋ぐ”という、幸福を願う意味が込められている。
笹の葉文
寒さ暑さそして雪にも強い笹の葉は、冬も鮮やかな緑色を保つことから、健康長寿の意味が込められている。
蜘蛛の巣文
蜘蛛の巣をイメージ。幸運を絡めとるという意味が込められている。
亀甲文
亀の甲羅をイメージ。長寿、健康、無病息災、吉兆の意味合いが込められている。
良時代、西暦700年頃から日本でも使用されている伝統的な文様。
花切子
グラインダーで具象的な自然の柄などを下絵なしに直接グラスに彫っていく技法のこと。
ぶどうやさかながある。
江戸切子と薩摩切子の違い
江戸切子の特徴
無色透明なガラスを起源として、その後、藍・紅色の厚さの薄い色ガラスを無色透明なガラスに被せ器に切子を施している。江戸風情から生み出る花鳥風月のデザインや柔らかな曲線を多用した多彩で粋な切子デザインが多い。
江戸切子館HPより引用
薩摩切子の特徴
海外の手法にみられる厚めの色ガラスを透明な色ガラスに着せている器に対し、色ガラス部分を深く切子していることにより生じる色のグラデーションの味わいがある。また、菱切子などによる直線的なデザインが多い。
江戸切子館HPより引用
有名工房や最近の切子の発展について
有名なのは花硝さん、根本硝子工房さん、篠崎硝子工芸所さん、ミツワ硝子工芸さん、でしょうか?
正直まだ切子の技術が何処へ向かっているのか?分かってはいません。
調べる中で「新進気鋭の若手作家特集」というページがあったのでリンクを張っておきます。
初めての江戸切子にお勧めの酒器4選
それでは以上を踏まえ、いよいよ酒器のお勧めをしたいと思います。
私もそうですが、切子に興味を持ち始め、初めて購入するときに、あまりに高額なモノやデザインが深いモノには手が出難いと思います。
やはり初めは「一目で分かる江戸切子らしいデザイン」であり、「3万円以下、できれば1万円以内」程度で購入できる作品から選んでみたいと思っています。
江戸切子協同組合さんのHPに、江戸切子の組合員紹介ページがありましたので、そこから上記の条件に基づき酒器を探してみました。
4社の作品をピックアップしてみましたのでご紹介していきます。
大場硝子加工所 平盃 七宝 瑠璃
HP https://www.ohba-kiriko.tokyo/
【大きさ】口径65×高さ40mm【素材】ソーダガラス
販売価格11,000 円(税込み)
haku硝子 花火
HP https://www.hakuglass.com/
【大きさ】口径60×高さ50mm【素材】クリスタルガラス
販売価格10,000 円
華硝 華盛
HP https://www.edokiriko.co.jp/
【大きさ】口径65×高さ50mm【素材】ソーダガラス
販売価格27,500 円(税込み)
株式会社清水硝子 ぐい呑み SG101CB
HP https://shimizuglass.com/
【大きさ】口径65×高さ50mm【素材】ソーダガラス
販売価格8,800 円(税込み)
最後に
近い内にレビュー記事をアップしたいと思います。
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